「あったらいいな」をつくりだす

海辺の横顔 ピエール・カシニョール 画
海辺の横顔 ピエール・カシニョール 画

●「あったらいいな」をつくりだす ファ−ストリテイリング会長兼社長 柳井 正 氏

「価格は低いけど品質がいい」と、ユニクロを選ぶ人が以前より増えたと感じる。節約志向はこの秋冬から特にシビアになり、09年はもっと厳しい。でも安いだけでは売れない。保温効果のある機能性肌着「ヒ−トテック」のように、価格と品質のバランスでバリュ−(価値)を感じてもらえた。ただ、特別いいのは08年11月だけ。それまでは多少、水面上に浮かんでいただけだ。

これまでの好景気は、金融の信用膨張や資源高などに支えられたバブル。いまはバブルを正常化していく過程にある。そのなかで個人の資産は減り、雇用も不安定。勤めている会社の経営内容もよくないとなれば、服を買う気など起こらない。店がある英国やフランス、米国などの先進国は日本以上に景気が悪い。

百貨店やス−パ−の衣料品は大苦戦しているが、商売の内容が変わらない改装や増床をするだけでは、同質化するだけ。構造をダイナミックに変えない限り、過去の延長線上に将来はない。お客様の声を聞き、メリットを売り場やチラシなどで情報発信していくことが必要だ。

我々は同質化しないために、原材料から工場まで、全部自分たちが指定し、責任を持って商品をつくる製造小売り(SPA)。ヒ−トテックは08年、2800万点生産した。リスクを100%とるから、何百万点、何千万点と生産できた。そして売れた。これだけのリスクをとれる企業はふつうはない。商品を全品買い取らない既存の店は、リスクをだれかに転嫁している。

ユニクロがリスクをとれるのは、同じことをやり続けているから。スポ−ツと一緒で、何回も繰り返せば上達する。プロフィット(利潤)とリスクはイコ−ルだ。日本人の最大の欠点は安心、安全、安定志向。当然、プロフィットは生まれない。

我々の「いい服」は、カジュアルでもドレスアップでも着られて、ブランド品とも古くから持っている服とも合い、着回しがきく。他の服と組み合わせたときにうれしいなと思える、値段以上の付加価値を提供していく。いまはたまたま売れているが、ファッション産業は移り変わりが激しく、流通業もほぼ昔の企業は生き残っていない。

消費は冷え込んでいるが、ゼロになることはない。新しい需要をつくりだし、自分たちで努力して開発することだ。フリ−スやカシミアのセ−タ−も、需要は最初からあったわけではない。例えば、洗ったら10分ですぐに乾く服、水洗いで全部きれいに洗える服。これがあれば、旅行は着替えを持たずに済む。「あったらいいな」をつくりだすこと。それが大事だ。

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