遅咲きの花を待つ

冬の星  小堀四郎 画
冬の星  小堀四郎 画

●遅咲きの花を待つ 神奈川県鎌倉市 看護師 西原 理枝 氏 46歳

金曜日、中3の次男が学校から帰るなり、「うぜえ」と言ったきり、布団にくるまってしまった。部屋のドアを中から何かで押さえつけ、声をかけても何の反応もない。

息子の篭城が始まった。いつもはゲ−ムの音や笑い声がもれてくる部屋の壁に耳をつけても、全く何の音も聞こえてこない。3日後は公立高校の願書を出しに行く日である。

息子は勉強が好きなほうではない。「勉強しなさい」は馬の耳に念仏。たまに勉強をみてやると、いつも必ず親子げんかで終って後味を悪くする。

息子の籠城は2晩を越えた。おなかをすかせていないか、スト−ブの灯油はつきていないか、願書は出しに行くのか、生きているのだろうかとさえも思った。もう二度と勉強しなさいと言わないから、出てきてほしかった。

7年前の今ごろ、私は必死に数学と格闘していた。40歳の春に再び学生となり、初めて学ぶことの楽しさを知った3年間。20で社会に出てから曲折の人生だったが、今やつと天職にめぐりあった。

日曜の晴れた朝、何もなかったように、息子は部屋から出てきて大量の朝ごはんを食べ、友達と約束があるからと家を出ていった。

息子よ、いつか遅咲きの花が咲くのを気長に待っているからね。

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